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悪人 [映画]

映画「悪人」を観た。

まず、始めに言ってしまうと個人的には今年no1作品になった。
元々のぶっとい原作を完全に掌握して、演出をした監督の力量は、ものすごいモノがあると
言わざるを得ない。
名優たちの優れた演技をお互いに信頼し、演出を徹底して、アップの映像がとても多かった。
被写界深度もギリギリまで上げて、ほとんど顔以外はボケていて、迫力と説得力が凄かった。
あすこまでアップにしてブレない演技は、正に名優たちです!
大体あれだけアップを多用したら普通飽きるというか、話が破綻してしまいますよ。
それをあえて、あえてというか、あの演出しかなかったんだと思う。
人間の感情の深部をえぐり出すには、説得力のある”顔”が一番だと思う。
樹木希林、柄本明、満島ひかり、勿論、妻夫木聡と深津絵里。
あれだけ徹底出来るのは、演出の確かさと俳優監督の信頼感、それが生み出す作品としての強さ
色々な要素が揃わないとありえない作品だ!と思った。

ローケションも頭にあったシーンが完全再現されていた。これはもしかしたら既に原作が描かれて
いた時点で吉田修一が、その場所を念頭に小説を書いていたのかもしれないけど。小説を読んで
浮かんだ風景とほとんどズレが無かった。それを忠実に再現していた。ロケハン能力、間違いない演出
これらもまた物凄い力強い作品を作り出す原動力になっていた。

それにしても深津絵里という女優は何なんだろう。。人格が完全に入ってしまうんだろうか。
途中、逃亡を始める前に抱かれた後から顔が変わっていた。勿論端的な演出もあるのだろうけど、
あの心の精神の深部から出てくる顔はなんだったんだろう。。脚本と原作と演出とから汲み取った
ものがどうやってあすこまで身体に宿ることが出来るのだろうか。

作品のストーリーの多重構造化と登場人物達の精神的多重化とが、ガチガチに絡みあって、この悪人という作品を形作っているのだと思うのだけど、それがきちんと伝わってきて、何度か心が悲鳴を上げて震えてしまった。泣けるというより心臓を直接掴まれるような精神をナイフで傷つけられるような、肉体的な痛みを伴った涙だった。涙というかチープですが「心の叫び」だった。
感情を形に表せないから叫ぶしかないような痛さだった。

まぁとにかく、見所が満載だったんです。演出、俳優、ストーリー三位一体の揺るがない力強い作品でした。


と、ここまで絶賛なのですが、悲しいかな、自分の中では原作の小説を超えてはいないな。
という風に見えてしまいました。忠実で完璧なんだけど、完璧すぎる故に同じ感情を得る事が
出来た小説のほうが強く心に残ってしまうのです。到達点のゴールが一緒だったんです。
それ故にすでに感じた感情がまた湧き上がってきただけになってしまったのです。
もうなんだか、これはどうしようもないのかもしれません。
仮に映画を先に観ていたら、物凄く感動して、逆に小説には感動しなかったのかもしれません。
また、映像というマルチな表現と活字という表現で同じ境地に達したと考えると、本という
チープコンテンツで、ここまで心を震わす事が出来るのかと思ってしまったのです。
分かりやすい言い方をここでする意味があるか分かりませんが、映画がこの一年でのNO1だとするのですが、小説はここ5年とかのNO1なんですよね。

小説表現で、人間の深部にここまで迫ることが出来るのか!と読んだ当時、そしてその後に年月が経ってあらためて見えてくる吉田修一の描き出す能力才能にただただ今でも感嘆しているのです。

それを映像で描き出し、同じポジションまで来たというのは十二分に凄い事なんですけどね。。
ホント映像化は無理だと思ってましたもん。仮にしてもつまらなくなるだろうと思ってました。

映画の「悪人」は、それこそ誰にでも堂々とお勧め出来る作品です。
それこそオススメするという意味では、小説よりおすすめが出来ます。

久しぶりに、いやもしかしたら自分の中で史上初めて、97点と99点で優越がついてしまった
忘れることが出来ない作品に出会えました。この監督さんはこれからもずうーーっと追っかけて
いきます。
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